転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


214 毎日お水を汲みに行くのって大変なんだよ



 デザートのアイスクリームを食べ終えた後も、僕とお父さん、それにお兄ちゃんたちとキャリーナ姉ちゃんはその場でお喋りをしてたんだ。

 でね、その間にお母さんとレーア姉ちゃんが食べた食器を洗ってたんだけど、

「あら、いけない。水が足らなくなりそうだわ」

 洗うのに必要な水がめに入れてあったお水が、どうやら足らなくなったみたいなんだ。

「どうして? いつもなら十分足りてるのに」

「それがねえ、さっき食べたアイスクリームを作るときに使ったかき混ぜる棒や、食べた時に使った入れ物なんかを洗うのに使いすぎてしまったようなのよ」

 アイスクリームをかき混ぜる棒って羽根がついてるからきれいに洗おうと思ったら大変なんだって。

 だからお母さん、それを洗うのにお水をいっぱい使っちゃったみたいなんだ。

「ねぇ、ディック。外はもう暗くなり始めてるし、悪いけど、井戸まで行って水を汲んできて頂戴」

「えー、今から?」

 お水が無いと困っちゃうよね? だからお母さんは、ディック兄ちゃんに井戸まで言ってお水を汲んで来てって言ったんだ。

 うちの場合は川の方が近いけど、暗くなると危ないからね。

 でも、井戸までは結構あるからお兄ちゃんは行きたく無いみたい。

「仕方ないでしょ、お兄ちゃん。お水が無いと洗い物ができないし、それにお水が無いと明日の朝ご飯も作れないよ」

 だけどね、レーア姉ちゃんに怒られてしぶしぶ行く事にしたみたいなんだ。

「こんな風に水が足らなくなるなら、水がめをもっと大きいのにしとけばいいのに」

「そうは言うけど、確かに冬ならそれでもいいわよ。けど、これだけ暖かくなって来ると水も悪くなりやすいから、これ以上大きな水がめにすると余った分を毎日捨てなくちゃならなくなるもの。ディックは毎日、捨てるかもしれない水までわざわざ汲んで来たいの?」

「うっ、流石にそれはいやだなぁ」

 川が近いって言っても、お水は結構重たいから余分に汲んでくるのは嫌だよね。

 だからディック兄ちゃんは、やっぱいいやって言いながら水を汲んでくる桶を持ってお外へ出かけて行ったんだ。


「お母さん。お水ってやっぱりいっぱいあった方がいいの?」

「そうねぇ。確かにいっぱいあれば洗い物もしやすくなるし、色々と便利になると思うわよ。でも、悪くなったお水を飲んでルディーンたちのお腹が痛くなったら困るもの。だから今くらいの量でやりくりするのが丁度いいわ」

 そっか、やっぱりお水はいっぱいあった方が便利なんだね。

 お母さんやレーア姉ちゃん、いっつもちょっとのお水で洗い物をしてるもんね。

 でもいっぱい汲んどけたら、もっとジャブジャブ使えるはずだもん。

 絶対もっと大きな水がめがあった方がいいって僕、思うんだ。

「じゃあさ、お水がずっと悪くならなくて僕たちのお腹が痛くならなかったら、もっと大きな水がめにしたい?」

「そうね。もしそうだったら、何日分も一度に汲んでこられるからハンスやお兄ちゃんたちも毎日水汲みをしなくてもすむようになるし、きっと助かっちゃうでしょうね」

 やっぱりそうなんだね。

 今はお父さんやお兄ちゃんたちが毎日変わりばんこにお水を汲みに行ってるけど、一度にいっぱい汲んで来てもいいなら大釈迦なんかに積んでお家まで持って来ればいいもん。

 絶対みんな助かっちゃうはずなんだ。

「うん、解った! じゃあ僕、ずっとお水が悪くならない水がめの魔道具を作ってあげるよ」 

「水が悪くならない魔道具? えっと、そんなものが本当に作れるの?」

「うん、できると思うよ。だって、街ではそれを使ってるみたいだもん」

 イーノックカウで泊まった『若葉の風亭』には水洗トイレがあったから、きっとどこかにおっきな水がめを置いて、そこに井戸からお水を汲んで入れてるんだと思うんだ。。

 だって水の魔石でお水を作ってるのなら物凄くいっぱい魔道リキッドがいるから、そんなお水をおトイレなんかに使えるはず無いもんね。

 でもそれだとすぐにお水が悪くなってへんな匂いがしだすから、きっと魔法できれいにしてるんだって僕、思ってるんだ。

「そうなの? もしそうならとても助かるし、作ってもらおうかしら」

「うん! じゃあ僕が作ってあげるよ」

 お水がずっときれいなまんまの水がめが本当に作れるなら、お母さんはとっても助かるんだって。

 だから僕は、お母さんに魔法の水がめを作ってあげることにしたんだ。

 でもね、それを横で聞いてたお父さんが作っちゃダメって言うんだよね。

「えー、なんで? だって魔法の水がめがあったら、お父さんだって水汲みが楽になるんだよ?」

「それは確かにそうなんだが……おいおい、さっき魔道具の使いすぎはダメだと言ったばかりだろう」

 あっ、そっか。そう言えばアイスクリームを食べてる時にお父さんがそんな事、言ってたっけ。

 でもさ、この魔法の水がめは僕んちだけにしか作んないんだし、それなら魔力は僕かキャリーナ姉ちゃんが注げばいいんだから魔道リキッドは使わなくてもいいんだよね。

 だからそう言ったんだけど、お父さんはそういう問題じゃないって言うんだ。

「水がめは毎日使うものだろう? そうなると魔道リキッドを使わないとなると毎日誰かが魔力を注がなければならなくなるから大変じゃないか。それに注ぎ忘れて水が悪くなっても困るし」

 そっか! お父さんは魔道具って聞いていっぱい魔力がいるって勘違いしちゃってるんだね。

 でもさ、この魔道具は今まで作ったのと違ってあんまり魔力がいらないんだよね。

「大丈夫だよ。お水がずっと悪くならない魔法の水がめは、他の魔道具と違ってあんまり魔力を使わないから、いっぺん魔力を注いどけば多分一月くらい持つはずだもん」

「なに!? 本当か、ルディーン」

「うん! だってこの魔法の水がめは魔石の力でお水をきれいにするんじゃなくって、魔法陣で魔法を使ってきれいにするんだもん。それにね、一日に朝と晩の2回くらい魔法を発動するだけでずっとお水はきれいなまんまだから、ほんとにちょっとの魔力ですむんだよ」

 神官が使う光の魔法ピュリファイはそこにあるものを浄化する魔法だから、使うたんびに食べ物や飲み物を腐らないようにきれいにしてくれるんだよね。

 そりゃ野菜や果物とかはダメだよ? だってあれは悪くなってるんじゃなくって葉っぱや茎に栄養を使ってたり熟して行ってたりするんだから。

 でもお肉にかければ熟成はするけど腐る事はないし、お水にかければずっと悪くならないんだよね。

 だから一日に二回くらいかけておけば、そこに入れてあるお水はずっときれいなままのハンズなんだ。

「だが、それでも2〜3日に一度は魔力を注がなくちゃいけないんだろ?」
 
「ううん。魔石の大きさによると思うんだけど、ちょっと大きめの魔石を使えば2〜3週間は持つんじゃないかな? それにね、僕は作り方をまだ教えてもらって無いからすぐにはできないけど、物を軽くする魔道具があるでしょ? あれとおんなじように周りの魔力を吸収できる魔物の素材を使えば、多分魔力を注がなくてもよくなるって僕、思うよ」

 ピュリファイは便利な魔法だけど、7レベルで覚えられる一般魔法だから使うMPも5と少ないんだよね。

 だからちょっといい素材を使えば、一日に使う2回分のMPくらいなら簡単に溜まっちゃうんじゃないかなぁって思ってるんだ。

「魔力も魔道リキッドも使わない魔道具。そんな物が本当に作れるのか?」

「うん。お父さんたちが使ってる物が軽くなる魔道具だって魔道リキッドを使って無いでしょ? もしかしたら魔道具に使うやり方がとっても難しかったり、すっごく強い魔物の素材を使わないと作れないかもしれないけど、それでも2〜3週間に一度魔力を注ぐだけなら僕やキャリーナ姉ちゃんなら簡単だもん。だからね、お父さん。作ってもいい?」

「まぁ、そこまで言うのなら」

「やったぁ!」

 こうして僕は、お母さんの為にお水がずっと悪くならない魔法の水がめを作る事になったんだ。


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